M&Aフォーラム賞

日本における株式非公開化の価値創造効果

M&Aフォーラム賞 選考委員特別賞 『RECOF特別賞』

論文:東京工業大学 修士論文
作 者:何 叢い
     東京工業大学大学院 社会理工学研究科 経営工学専攻

作品の要約

表紙写真 株式非公開化とは、上場企業が戦略的に株式を非公開化し、非上場のかたちで企業の経営を継続することである。通常、企業は株式市場から大量で長期安定資金の調達が可能となる等の理由で、株式市場で株式公開することを選択している。株式公開により資金調達の多様化が図れる他、知名度の向上や社会的信用の増大といった効果がある。その一方、不特定多数の投資家から資金調達を行うことから、業績など企業情報を開示する義務が生じ、それによって競争上の不利益が生じることもある。
  企業にとって上場を維持するにはリスク若しくはコストがかかっている。そのため、上場によるリスクやコストが上場メリットを上回る場合に、上場企業は株式非公開化のインセンティブを持つ。株式非公開化によって、株主からの圧力や各種の上場規制から解放される経営を選択すべきである。非上場化に伴う以下のようなメリットが存在する。@非公開化により少数株主と一部の大株主が排除されるため、よりシンプルな株式保有構成の下での経営者と所有者の利害不一致問題が緩和できる。A経営権と支配権がより集中的となるため、非公開企業の意思決定が迅速になる。B直接的・間接的な上場コストが削減できる。
  本研究の最初の問題意識としては、このような上場を廃止し、株式市場から離れようとする行動に対し、投資家は如何に評価を下すのかということにある。企業内部の利害対立、対象企業の特徴、そして買収者の属性等の3つの視点から、株主価値の価値創造効果について分析する。結論は主に以下の3つとなる。
  第一に、日本における株式非公開化は、被買収企業の株主価値に対して正の価値創造効果をもたらしている。日本における株式非公開化の平均的な価値創造効果は約16.4%と観察される(買収公表日を0時点として、−1日から1日までの株式累積異常リターンで測定する)。
  第二に、価値創造効果と結びつく要因としては、主に経営陣が裁量的に使える現金の低減、安定的大株主によるエントレンチメント効果の緩和、大きな資金需要がないこと、事業会社による高負債比率の企業の買収、事業会社による事業関連性のある企業の買収であると考えられる。
  第三に、以上の価値創造要因のうち、安定的大株主によるエントレンチメント効果の緩和、大きな資金需要がないこと、事業会社による高負債比率の企業の買収がより重要な源泉であることが検証で示されている。

 

評価コメント

  株式非公開化の事例は増加傾向にあり、また、少数株主保護に関連する諸問題が顕在化しており、その価値創造効果の分析は、最近のわが国のM&A市場にとって重要なテーマと考えられる。
  実証論文としては、しっかりした構成で、検証すべき仮説の範囲も多面的・網羅的に検証しようとする姿勢がうかがえ、日本の市場や企業の特徴に配慮した分析を試みている点も評価したい。
  検証結果に関する考察については、おおむね賛成できる部分と、日本の市場や企業の特徴を踏まえた熟慮が望まれる部分が混在している感がある。特に、株主構成や経営陣のインセンティブについては、日本の特徴を踏まえた再検証が望まれる(例えば、日本的純粋的大株主の行動パターン、オーナー会社の非公開化など)。
  なお、今後の課題で挙げられている事項(純粋的大株主の影響、データの限界、完全子会社化)はそれぞれ適切であり、更なる研究を期待したい。